まずは簡単にテスターの自己紹介から。
筆者はプロのテストライダーでもなければ、バイク雑誌のライターでもない。普段はいたって普通のサラリーマンで、原付以外はバイクも所有していない。
最近は育児にもだいぶ手がかからなくなってきたので、「リターンするのにふさわしい一台」を探して独りニヤニヤしている「元バイク乗りのオヤジ」だ。
僕の様に、世間体やら、収入やら、カミさんのご機嫌やら、いろいろなしがらみと格闘しながら生きているけれども、「家庭でもなければ職場でもない第三の居場所を求めて」リターンしたいオヤジは、潜在的にも顕在的にもたくさんいる気がするのだ。
そんなオヤジの乾いたココロを「WR250Xは満たせるのかどうか」。
今回のテーマはそこだ。
全体の印象
WR250Xと、ベース車のWR250Rのデビューは2007年11月だから、ほぼ2年が経過した事になる。細かい仕様等についての説明は他に譲るが、まずはオヤジライダー目線で見る全体の印象から。
試乗車の色使いはとてもカッコイイ。これぞヤマハというべきブルーと、新しさや高級感を感じさせるブラックの2トーン。
ぱっと見、同じヤマハの「XT250X」と見分けが付きにくい様な気もするけれど、お尻の跳ね上がり具合とか、各箇所のシャープさが違う、それに幾分車格も大きい。とはいえマンションの駐輪場にも無理なく収まりそうだし、何はともあれ今までのトレール車とは比較にならない位質感が高い。「フレームがアルミ」だという事だけでもビッグニュースなのに、それをつや消しブラックに塗り上げるなんて、いままでの国産車ではちょっと考えられなかった事だ。
ちょっと押し歩きをしてみる。
エンジンの真上辺りに今までのトレールモデルには無かった「ちょっとした重さ」を感じる。しかし嫌な感じの重さではない。例えるなら「ドイツ車の様な怒濤の剛性感がある、しっかりとした強いフレームがそう感じさせている」といった印象である。転じて今までのトレール車を「軽い」と感じさていたのは「フレーム構造が自転車の延長線上にある、軽く弱い物であったため」ではないかとも思えてしまう。走り出してしまえば解る事だが、不思議な事にこの「重さ」は走行中には全く感じないのである。これは前後重量バランスが極めて絶妙に設計されているからだと推測できるし、むしろこの重さを作り出しているであろうフレームがあるからこそ、路面からの入力がどんなに強烈でも全くびくともしない車体が完成したのであろう。
跨ってみると、身長172cm、体重70kgの筆者には丁度良い位のサイズ。足着きも片足ならばほぼベッタリだし、両足でも爪先+α位までは着く。
ただし、ウワサ通りサスペンションは少し硬めの印象。跨ってすぐに数センチだけはスッと下がるのだが、それ以上はグッと踏ん張って下がらない。よってセローなんかの足着きを期待しているとそれはあっさりと裏切られる事になる。
いざ、出発!
さて乗りますかと、エイヤっと右足を高く振り上げる。
しかし、うっかりするとリヤフェンダーにしたたかブーツの擦り傷を作ってしまう程このバイクはリヤが跳ね上がっている。やはり左足をステップに乗せてから跨るのが正しい乗り方なのだろう。体重と車重を支えねばならないサイドスタンドもしっかり作られていそうだし。
右手の親指一本で目覚めたエンジンの鼓動間隔は明らかに「速い」。これはアイドリングの設定値が間違っているから。
ではなく、コイツがとんでもなく高回転型の心臓を持っているからにほかならない。擬音で説明すれば、トコトコでもドコドコでもなく、ドルルルルというべきか。深夜の住宅街で始動するのはやめておいた方がいい音量だが、秘めたるパフォーマンスの高さを期待させる歯切れの良い音質だ。
暖気は走りながらやるとして、握力をほとんど必要としないクラッチレバーをスッと握り、ギアを入れる。ゆっくりとクラッチレバーを離してみるが、クラッチミートの感触が無いまま、いたってスムーズに発進する。
低速トルクは充分以上にある。いや、正確に言うならば、すごいパワーが非常にきめ細かい爆発間隔で送り出されてくるため、「ひとかたまりの力強いトルク」に感じると言うべきか。
一般道で
3車線の大きな幹線道路で車の脇をすり抜けて行く。
一般道ですり抜けをするのは筆者も数年振りで、自ずと緊張する場面だが不思議と不安が少ない。何故だろうと考えるとモタードタイプはトレールタイプに比べタイヤ径が幾分小さいため、トラックやSUV車のミラーよりもハンドル位置が若干低い様だ。ハンドル幅こそあるものの、WR250Xにとってすり抜けは得意分野だと言えるかも知れない。タイヤ径の大きいWR250Rではおそらくこうは行かないだろう。
信号待ちの列の一番前に出てシグナルスタートを決めてみる。
どんなWRの本を見ても、開発者からの言葉は「思いっきり回して下さい」とある。なのでシフトアップを故意に遅らせ、思いっきり高回転まで引っ張ってからシフトアップしてみる。
もの凄い加速感、いや、「感」ではなく本当にもの凄いスピードで加速しているのだ。10,000rpmで最高出力をひねり出すエンジンだから、常に高回転を意識しながらシフトアップすれば、天井知らずの「ワープスピード」がどこまでも楽しめる。できれば実際に回転数を確認しながら走りたい所だが、残念ながらタコメーターは装備されていない。これはちょっと残念と言わざるを得ない。
しかして驚くのはトップギアの6速に入ってもなお、(レヴリミッターが働くまでは)もの凄いパワー感を伴ってまだまだ加速し続けようとする事。
天井知らずの高回転型エンジン
これは他社のモタードモデルには不可能な芸当だろう。なぜなら他社は、低回転でのトルクを重視したオフロードトレールをベースにしているから、こんなに息の長い加速は続き様が無い。WRの加速区間の半分にも満たない所で他社モタードは頭打ちを迎える事になるはずだ。
この加速に匹敵できるのは、昨今のオーバー750位だろう。しかして、コイツはまぎれも無く「250」なのだ。
前述のフレーム剛性と足周りがもたらす、「どこまでも安定した車体」と、ABS付きに匹敵する「強力かつコントローラブルなブレーキ」で、加速中や高速域レベルでの不安は微塵も感じさせない。
これならば「信号で止まるのが楽しみ」になる事うけあいである。
250ccとは思えない、ガッシリとしたリヤ周り
非常に強力でコントローラブルなブレーキ
高速道路で
先日、WR250Xで大排気量バイクたちとマスツーリングを共にする機会を得た。
高速道路上で彼らに付いて行けるかどうか不安になったが、結果的には「全くの杞憂であった」と記しておこう。この加速性能ならば置いていかれる心配もないし、安定した車体によって大排気量車とほとんど遜色の無い速度で巡航も可能であったからだ。
ちょっと玉にキズなのはこのシート。「攻める走り」用に出来ているためか、10kmも走るとお尻に痛みが出てくる。しかしこれにはちゃんと対処法がある。まずは順等に自分の軽量化、つまり「ダイエット」する事。
「そんな意地の悪い事を...」とおっしゃる方には、最近発売されたWR250X/R用「ゲルザブシート」がおススメ。これはジェル剤を封入した座布団をシート上に固定する事でお尻の痛みを軽減するという優れ物。ぜひお試しあれ。
そして峠道
ここまでオールラウンドなWR250Xであるが、やはり真骨頂は、軽い車体とハイパワーエンジンを生かしたワインディングでの走りに尽きるだろう。
峠道でのテストライドも、大排気量車たちとのマスツーリング時であった。
峠の登りで彼らに付いて行くには、回転数を落とさない様、ひとつ低めのギアで思いっきり引っ張りながら走る事が要求された。何度かパワーバンドを外してしまって、置いて行かれない様リカバリーに必死になる事もあったけれど、上手く決まると、この上なく楽しい気分になれる。
そして何と言っても、峠は下り。
このステージではモタード車らしい走りが思いきり堪能できる。
コーナー手前でブレーキングとともにシフトダウン。強めのエンジンブレーキ、言い換えれば「バックトルク状態」を故意に発生させ、リヤタイヤをスライドさせながら走る事を意識して車体を寝かせハンドルを操作する。どこまでも安定してしまうこのバイクを完全なスライド状態に持ち込むのは僕の腕では役不足だけれど、リヤへの荷重が減少する下り坂ならば「なんとなくスライド状態」位まではなんとかなる。
そしてコーナーの中程を通過する辺りから、テールスライド状態になっているバイクを前に進ませるため、徐々にリヤタイアにパワーをかけ、加速しながらコーナーを脱出して行く事に意識を集中しながらアクセルを開けていく。「テールスライドから加速へ」。この移行ができるだけスムーズにできればできるほど喜びは大きいのだ。
何度かこれが決まり始めると、大排気量車たちのペースが遅いとすら感じ始める。「バイクの出来が良いと、ここまで変わる物なのか」と密かにほくそ笑んでしまう。こうなるともう楽しくて楽しくて、いつまでも走っていたくなる。
総括
WR250Xは本当にオールラウンドに楽しめる1台だ。運転自体にも気難しい所など全くない。「ハイパフォーマンスなのに懐が深い」のだ。
こんな素晴らしいマシンに「車検が無い」なんて、「ヤマハさん有り難う!」としか言いようがないではないか。
リターンしたいオヤジ的観点から言えば、奥方からの「夕飯のオカズ足りないからちょっと買って来て!」なんて要求にも、下駄の様に乗れるWR250Xなら応えられるし、荷物の積載にはちょっとアタマを使うけれど、高速を使ったロングツーリングだってこなせてしまう。林道ツーリングだって、フラットダート位ならば全く問題ナシ、というか相当楽しいかも知れない。そして「ゲルザブ」があれば北海道ツーリングだって夢ではない。
また、こうも言える。
「大排気量車にできる事はほとんどできるし、大排気量車にできない事もできる」。言い換えれば「大排気量車が買えない言い訳にする」のではなく、WR250Xならば、むしろ積極的に「大排気量車を選ばない理由」になり得るのだ。
一部では「こんなハイパフォーマンスなバイクはビギナーやリターンライダーには薦められない」なんてうそぶく人もいるけれど、僕個人はそれは違うと思っている。
確かにセローにはセローの、XT250XにはXT250Xの長所があるけれど、人間は慣れて行く動物。そのうち「もっと刺激を!」となるに違いないと僕は思うのだ。
その時「リターンしたライダー」がおいそれとバイクを買い替えられるとは思えない。だったら最初からプレミアムで高性能な物を選んでおくのが「大人の買い物」の様な気がしてならないのである。
「税込み車両本体価格732,900円」は伊達ではないが、乗っていて思ったのは、まさに「プライスレス」な1台だと言う事。一度購入したら永い付き合いになる物だけに、審美眼は鍛えておくべきだと思うし、WR250Xはきっとそのお眼鏡に叶うはずだ。
YSP店では月々の支払い額を小額に抑える事ができるバイク用残価設定型の「Yローン」を用意しているから、気になった諸兄は一度YSP店に相談に行ってみてはどうだろうか。
次回リポートでは競合車との比較なども行ってみたいと思っているので、乞うご期待あれ。
●維持費の目安になればと、参考までに先日のマスツーリングでの燃費を記載しておきますので、参考にしてください。
<一般道>:30km/リッター
<高速道路>:18km/リッター *大排気量車に付いて行ったため悪燃費となった。
<峠道>:23km/リッター
やはり「モタードレースに出場する事も前提にしているバイク」だから、「本気の足」を持っている事は当然のナリユキなのだろう。
セル始動のみのエンジンには、もちろん「キックペダル」は生えていない。そしてそれはオプションでさえも用意されていない。
「バッテリーがダメになった時にはコイツが物を言うのさ!」なんて言いながら、わざわざキックペダルをオプションでつけていた僕の様な「旧型オヤジオフローダー」にとっては驚きの事実だ。
そしてあと2つ無くなった物がある。
「フューエルコック」と「チョークレバー」だ。
それはコイツの燃料噴射方式がキャブレターではなく、「フューエルインジェクション」を採用しているから。昨今の環境対応に対応するがゆえの選択であるが、時の流れはオヤジライダーの常識をあっという間に非常識に変える。
「リザーブは?暖気は?」なんて思った貴兄は心配する事なかれ。その辺りはマシンの方で上手い事やってくれる。ガソリンが少なくなれば警告等が点くし、いまどき暖気はあまり必要ないそうである。むしろエンジンに悪いなんて言い出す人もいる位。
時代は変わったのだ。
関連リンク
ヤマハ発動機株式会社
http://www.yamaha-motor.co.jp
WR250X詳細情報
http://www.yamaha-motor.jp/mc/lineup/sportsbike/wr250x/
WR250Xスペシャルサイト
http://www.yamaha-motor.jp/mc/wr/index.html
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